専門家がメモを公開してくれると嬉しい
法学者の工藤郁子さんが【メモ】AI for Scienceの政策動向という記事を公開していた。東北大学のセミナーに登壇した際の「手元用のメモ」をそのまま公開したものだという。箇条書きとリンク、図版の引用で構成される記事は、たしかにメモの趣きがある。
見た瞬間、「工藤さんサイコー! メモ超助かる、ありがとう〜!!!」という気持ちになった。AI × 科学研究みたいなトピックを自分で掘るのは大変で、専門家のメモは本当に助かるからだ。とくに論文生産〜査読の現場で起こっていることについて、工藤さんの肌感覚的なコメントが入っているところが嬉しかった。
もしAIにお願いすれば、紹介されているような資料と似たような見栄えのメモを生成することはできる。もっと言えば、AI for Scienceというテーマならば、方向性や結論もだいたい同じになるかもしれない。
それでも、こういう専門家によるメモは超有益だ。なぜなら、当該分野について訓練されている人は、引用すべき資料とすべきでない資料を(ほとんど身体的に)選り分けることができるからだ。素人目にはよく似ている政府の審議会資料であっても、こっちよりはこっちのほうがいいとか、べつにどっちでもいいとか、これはダメとか、そういう判断がある。
とくにAI for Scienceのようなテクノロジーの変化に合わせてめまぐるしく動いているような議論の場合、「アメリカでは昨日からこういうトピックが話題だけど、日本ではうまく伝わらないかも」といったニュアンスの変化が大事なこともある。そういうわけで、どれだけラフなメモであっても、人間の専門家の身体を通過したものには特別な価値がある。
ある程度多くの人間がAIを前提にして読んだり書いたり調べたりする世界において、こういうメモの価値は高まっていると思う。以前は文献へのリンクがあっても難しくて読めなかったかもしれないが、いまならAIに解説してもらえばいいし。
たとえば、「ニュースでよく言われてる話を全体として文句言われないようにクソ真面目に整理すると超時間かかるけど自分の専門に限って言えばこのへんが関係ありそう」とか「最近このへん大事だから考えたい気がしてて、でも優先度的にすぐ論文にできるわけじゃないようなトピック&それに関連して読みたい文献リスト」とか、そういう内容を専門家のみなさまはどんどん公開してほしい。
なんでこんなことを書くかというと、日本にはある種の知的エンタメみたいなノリで学術的な入門コンテンツの需要も供給もあり、アウトリーチに関心がある人も多いと思うからだ。もちろんそれはそれで素晴らしいことだと思うんだけど、自分なりにいろいろ考えてる人や仕事にいかしたい人に向けて、専門家がリアルタイムに議論している(したい)重要なポイントを知らせるようなアウトリーチ活動ももっとあっていいのではないかしら。
真面目にやったらつくるの大変なタイプのコンテンツだと思うので(それもはやレビュー論文では的な)、気軽なものでいい。ラフに問題意識とか書いてあって、あとは箇条書きで文献や資料へのリンクとコメントさえあれば、読者からすれば超助かる。工藤さんもAIに突っ込んでみてくださいと書いておられたが、まさにというか、人間ではない存在が解説や要約を頑張ってくれることを前提にした発信いっぱいほしいです。専門家的な人が見てたら何卒〜!
p.s. 個人的には、こういうメモを公開する人が増えれば、産官学連携的なもののマッチング度合いというか打率というか、そういうものも高まるのではないかと思う。民間人からすると、アカデミックな論文や入門書だけだと、その研究者自身が産・官になにを期待しているかわかりにくい。自分もメディアっぽい仕事で研究者に取材する際、論文そのもの以上に公開しているメモやレジメ、レビュー論文を参考にして対象を決めることがある。ラフにいろいろな関心を示している資料を通じて、その人が他分野に対してどのように考えているか透けて見えるように思う。